小林 賢造(こばやし けんぞう)
富士通株式会社
日本データセンター協会(JDCC) 環境基準ワーキンググループ リーダー
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA) データセンター省エネ専門委員会 委員長
日本データセンター業界のキーマンの方々に「若手への思い」を語っていただくブログリレーです。
8回目は富士通株式会社 小林様に伺いました。
– 最初に小林様がデータセンターに携わるきっかけをお聞かせいただけますでしょうか。
もともとは通信装置、NW装置の開発に携わっており、その中でも画像を送ったりするTV会議や画像を解析するセキュリティ技術などを専門としていた。その後、富士通がデータセンターを構築する際に、競争力向上のためにセキュリティなどの社内コンサルをするようになったのがきっかけとなった。その時にセキュリティや高信頼設備とともに今後は省エネが重要になることを感じたため、社内外の省エネ技術を検討・研究を始めた。今は、省エネ技術の向上を中心にデータセンター業界と関わっている。
– データセンターを運用する上で重要なキーワードとなる省エネですが、進めていく上でどのような苦労がありましたか。
昔からある基準の中には今では厳し過ぎるものがある。現在のIT機器はそれほど脆弱ではないため、今のデータセンターに求められる基準を今のIT技術に沿った形にリメイクする必要がある。また、そもそも必要な基準なのかということも考える必要がある。もともと何でその基準が出来たのかも、時間が経つと分からなくなっていることもある。
– 過去の基準を現在に適合させるという難しい課題ですが、実際に進めてみてどのように感じましたが。
どうしようと考えた時に、一般的に安全サイドに考えてしまったことにより、厳しいままになってしまうことが多々ある。固まってしまっている常識を変えるのは難しい。企業の中でやるよりも、業界団体を使ってやるほうがいいと考えているが、JDCC、JEITAなどの協会でもIT屋と設備屋の間で認識のすり合わせはまだまだ不十分で、うまく連携が取れているとは言い難い。たとえば、サーバーの運用温度にしても設備側では昔から決められた通りに冷却していても、実は最近のIT側はそこまで求めていなかったりもする。設備屋は言いつけをちゃんと守る文化だが、それに構わずIT屋は競って変わっていく文化という印象がある。もともとの文化が違うので、全体最適をするためにも、もっと会話をして互いのつながりを強める必要がある。
– 海外のデータセンター事業者が日本に参入してきていますが、日本のデータセンターは今後どうすべきでしょうか。
メガクラウドベンダーのデータセンターは参考すべきところはある。海外の動向も活発に変わってきているので把握することが大切。ただ、データセンターには地の利を活かした競争力形成といった要素も大きい。日本の電力事情や、気候などの地理的特性の中に,国際競争力として活かせるものがまだ眠っている。このドメスティックな特性を活かす技術やサービスの開発を日本のデータセンター事業者が引っ張っていくべきだと考える。今は活かせておらず、規模のパワーで海外のデータセンター事業者に押し切られている感がある。
– 規模での勝負になると、海外のデータセンター事業者には敵わないですが日本のデータセンター事業者が活路を見出すことは可能でしょうか。
メガクラウドベンダーは意思決定がシンプルで、自身で機器の設計、製作が可能でコストを抑えることが可能となっている。一方、日本では個々のデータセンター事業者は海外と比較すると小さいので、単独で対応することは難しいが、根幹となる共通的な基準を作っていけば、異なるデータセンター事業者が共通のシンプルな意思決定で動くことが可能になり、そこで全体最適が進み、複数のデータセンター事業者が恩恵を享受できる。基準はあくまでも必要最小な部分のみとすれば標準化は有効だと考えている。
– 個でなく集団として行動することにより他にも様々なメリットがあると思いますが、それを実現するために何が弊害となっているのでしょうか。
データセンターの効率化は各社で隠して争う必要はなく、全体で良くなっていけばいい。競うところはサービスでいいのではないかと考えている。データセンターの新しい技術の検証は時間がかかる。技術導入し、検証して、その反省を踏まえて再構築するのは数年後になってしまう。しかし、複数のアプローチをお互いに見ながら、どれが良かったかを取捨していければ技術の成熟は格段に早くなる。この取り組みは、大きい事業者単独ではできないこともある。このような動きは、今はまだできていない。全てを秘匿するのではなく、オープンにする事、クローズにする事の判断スキルが日本人は不足している。話をしやすい緩いコネクションを持つことが大事。
– 今の若手が「不足していること」があれば教えてください。
今のデータセンター業界で良くしゃべる人はたいていがおじさん。もっと若い人でしゃべる人が増えてもいいと思う。まだまだ、存在感がない。提言、リクエストを発信してほしい。
– 最後に若手に対して「期待していること」を教えてください。
上の人は考え方が凝り固まってしまって柔軟な発想ができない。これは宿命。若い方にしか思いつかないアイデアが出てくるはず。これを大切にしたい。そのためにも感受性を高めて、もっといろいろな情報を拾って、データセンター業界の人ともっとしゃべって(議論して)いってほしい。Future Centerの活動を通して実感していると思うが、データセンター業界は横のつながりが大切。