尾西 弘之(おにし ひろゆき)
NTTコムウェア株式会社 ネットワーククラウド事業本部 SmartCloud推進部門 部門長
日本データセンター協会(JDCC) サーバ室技術ガイドブック ワーキンググループ リーダー
日本データセンター業界のキーマンの方々に「若手への思い」を語っていただくブログリレーです。
6回目はNTTコムウェア株式会社 尾西様に伺いました。
– 早速ですが、日本のデータセンター業界の変化はどのようにお考えでしょうか。
業界の成長とともにデータセンターの規模は大きくなってきましたが、5年前ごろから大きくならなくなりました。当時からモジュール化が流行り、小規模の投資に変わってきたと思います。しかしながら、今後はハイパースケールのデータセンターが出てきたときに、国内でも非常に大きな規模のデータセンターが増える傾向にあると思います。次に、電力密度の観点として一般用とハイスペックのデータセンターが2つに分かれてきています。一般的には4kVA 〜6kVAで充分ですが、10kVAを超過した需要が出てきました。また、ラック1台の耐荷重も1.2 〜1.3トンが限界だと考えられていましたが、液冷対応の配管設備も必要となってきており、耐荷重1.5トン程度が現れてきて、業界とともに技術も変化は起きています。
– データセンター市場の変化はいかがでしょうか。
国内市場は間違いなく伸びており、今までの都市型と郊外型の考えや用途が変わってきていると思います。ラック単位で売ってきましたが、占有面積や電力従量課金による販売が大規模都市を中心に行われてくるかもしれません。そして、これからは地方でもエッジコンピューティングで処理する傾向が出てくると予想しています。
– 国内と外資系データセンターとの事情を教えていただけますでしょうか。
外資系のデータセンターが参入しており、その流れに逆らえないと考えています。では日本の事業者はどうするのか。まずクラウドファーストからクラウドノーマルの時代になってきたため、ハウジング需要は落ちてきて、外資系データセンター事業者などのホールセラーが伸びており、元々大規模に運営している事業者は問題ないかもしれませんが、それ以外のデータセンターは生き残れるか懸念しています。そのため営業のやり方、サービス提供のやり方を見直す時期に来ていると思います。また、AmazonやGoogle、Microsoftなどのクラウド事業者との接続も重要となるでしょう。
– そのまま海外に飲み込まれるかもしれない日本はどのように立ち向かい、ビジネス展開すればよろしいでしょうか。
ハウジングの需要が減っていくのであれば、ハウジング以外で戦うことも一つの選択と考えています。クラウドの下にエッジコンピューティングやフォグコンピューティングがあり、IoTはフォグで集めて、エッジでローカル処理を行えます。これまでのデータセンターの用途とは異なってくるでしょう。SoRとSoEとの関係でも、情報系システムは間接費ベースの用途(ERPシステムなど)や企業内生産を行うための管理機能でした。情報系システムが持つ情報データが価値を生む、というビジネスに今後変わっていった時にエッジコンピューティングの傾向とどうマッピングするかが重要と思います。
– 別の視点でご質問させてください。尾西様がご参加されているOCPではオープン化の流れが加速しています。ただし、ファシリティ設備はベンダーロックインが残る現状はどうお考えでしょうか。
ベンダーロックインとしてはデータセンター建設時に、設計企業などが扱いやすい業者を選んでいる傾向があるかもしれません。外資系の事業者は標準化された物を選んで、地域エリアごとに微調整しながら導入しているため、国内のファシリティメーカーは相当苦労するのではないでしょうか。お客様が安心するためにファシリティの見える化、最適化も必要と思います。現状ファシリティはクローズドネットワーク前提でのシステムのため、オープン化しづらい状況がありますが、海外は最初からオープン設計している違いがあると考えています。
– 他に日本が遅れているものはありますか?
アセットマネージメント、OCPが取り組んでいるIT機器のオープン化も遅れていると思います。
– 例えばGoogleはサーバからファシリティまで自分たちで設計・保守していると聞いています。日本の事業者とはスピード感は違うと感じています。
IT機器の装置だけではなく、中のチップまでも自社独自で設計しています。グローバルで数十箇所以上のスケールを持つ事業者では成り立つのですが、国内事業者の規模では経営が持たないかもしれません。GoogleなどもメンバーであるOCPではその独自技術が誰でも手に入ることが一つの目標です。
– 実際アメリカでのOCP浸透率は違いますか。
実は、OCP自体はアメリカ内でもそこまで広がっていないようです。クラウドやゲームのコンテンツ等で大量のサーバを使う人たちには広まっています。技術自体がどんどん派生や進化しているのですが、日本についてはリードオンリー、勉強しているだけの会社が多いようにも思えます。
– 日本企業のサーバメーカーは追随できていないのでしょうか?
日本においては自社設計されなくなり、技術の動向を捕まえられておらず、コントロールがしづらいようです。そのためOCPの戦場には入れていません。彼らも技術オープン化の必要性は理解していますが、企業内でファシリティ部門なのかIT部門なのか、どちらが責任を負うのか、またその間に垣根があります。そして今はオープン化ができていないことと、そして人海戦術でやっているからコストが非常にかかっているように見えます。
– 日本の事業者に必要な視点はございますでしょうか。
『さくらインターネット田中社長』の【余白】を作ることが大事というメッセージです。私も運用者、技術者にはとても必要なことだと感じています。あと【端折ること】も必要だと思っています。業務には色々なプロセスがありますが、一つ抜いてみること。端折ってみたことによって本当に必要だったものも分かると思います。
– ありがとうございます。続いては尾西様のことを伺わせてください。データセンターに関わるきっかけを教えてください。
電電公社に入社し、電気通信ネットワーク関連の運用、開発などをやっていました。入社当時、電話局で通信機械・電力を担当し、電力設備、空調などを運用しており、データセンター関連では大変役に立っていると思います。NTTコムウェアが20年前に設立され、当初はNTTグループ向けにシステムの開発、導入、保守をしていたのですが、その後に対象範囲をNTTグループ以外の他企業向けにも拡げました。そして、それまでの通信機械室でのシステム運用の延長で、データセンターのビジネスも関わり始めたことがきっかけです。
– いまの若手はデータセンターを知らない状態で入社しています。技術情報をオープンで交換できるコミュニティが欲しい、そして若手のメンバーがもっと欲しい、という声が多いです。尾西様自身の若手時代はどういった思いで働いていたのでしょうか。
私自身が機械室で働いていた時期もあり、保守運用の責任者を担当したことから、如何にお客様のシステムを守るのかについては強い思いがあります。このためにはベストプラクティスを共有することは重要です。ただ、運用業務として技能的なこと、例えば目視点検ばかりやらせるだけだと腐ってしまいます。彼らも技術者としてのプライドがあるはずなので、新しい技術動向を見せながら、いろいろな業務に携わってきてもらうようにしてきました。
– 新しい技術を見せる手法・やり方をご教示いただけますでしょうか。
最初にNTTコムウェア社内で他社事例を習得するために、国内外のデータセンター見学を行いました。その後NTTグループ会社に拡げ、さらにグループに関係なく他社含めてサバイバルツアーを開催したことにより、新しいデータセンターの技術、運用情報を勉強しています。自分に任された任務だけではなく、他社と会話することで情報交換の活発化が私の根本にあります。サーバ室技術ガイドブックのワーキンググループもそこが目的です。各社が悩みを抱えている決まりがないものをまずは目に見えて分かる形にする。データセンター運用者の視点だけではなく、上からの視点、下からの視点も見ることが重要だと思います。自分の立場だけではなく、関係するステークホルダーも視点も捉えながら、勉強して行くことをお勧めします。
– 若手たちは情報を出してはいけない、と思っているようです。データセンター自体がセキュアな場所であるため、語ること自体もブレーキしているように見えます。
案外吐き出して見ると、みんな同じ悩みを抱えていることが分かります。データセンターの技術において秘密なことは案外少ないと思っています。それらの情報を皆さんが吐き出すことでオープンコミュニティがレベルアップし、自分に戻ってきます。ただしお客様情報などの一定の制限はかけておく約束事しておきながら、喋れることは喋っていいはずだと思います。
– 若手へのメッセージをいただきたいです。尾西様から見て若手への足りないことを教えてください。
足りないのは「チャレンジ」、「挑戦」です。与えられた仕事をこなすことはみなさん精一杯、誠実にやっています。ただし改善すること、新しいことをできないことが気になっています。私からデータセンター運用者向けに伝えていることは「地道な努力」と「大胆な発想」(エボリューション&レボリューション)です。お客様のシステムを守る上で地道にやっていくことは必要であり、大胆な発想を持ってコストを安くする、エンジニアを楽にして次のステージに目指すことが大事と思います。「地道な」ことはみなさんやられていますが、「大胆な」ことは難しいようです。手順にあることだけ従っていれば「大胆な」ことは出来なくなるでしょう。そして人の言われたことだけをやっているのはつまらないはずです。例えば、「セレンディピディ」を意識してみてください。苦労をすること、経験することで結果につながります。若手の時は着実にやっていると、いつの間にか力になるはずです。データセンターで運用管理で楽になること(端折ること)も段々に分かってくると思います。将来チームリーダーやマネージャ、スーパーバイザーになった時にコストや人のマネジメントをどうするかも見えてきます。
– 最後に、若手に対して期待していることをお話しいただけますでしょうか。
外資系の参入などで厳しい状況になってくるので、若い人の柔軟な発想が出てくることを期待しています。過去の経験だけしゃべる人間ではなく、フリーな立場でいろんなことを喋って欲しいです。私はそういうことを期待しています。自分の成長と会社、そして社会が良くならないと自分の生活も成り立たないからです。若手の皆さんから、今までと違うことを指摘できるようになると、より良い業界になってくると信じています。
・インタビュアー、テキスト
さくらインターネット株式会社 高峯 誠
・インタビュアー
三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社 相澤 祐太