江崎 浩(えさき ひろし)
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授
日本データセンター協会(JDCC) 理事・運営委員長
その他、WIDEプロジェクト代表。 東大グリーンICTプロジェクト代表、Live E! プロジェクト代表、MPLS-JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース代表、JPNIC副理事長、IPv6 Forum Fellow、ISOC理事
日本データセンター業界のキーマンの方々に「若手への思い」を語っていただくブログリレーです。
2回目は東京大学大学院教授 江崎先生に伺いました。
– 日本のデータセンター業界はどのように変化していくか、江崎先生のお考えを聞かせてください。
IT業界全体がどうなるかはわからない。しかしデータセンター業界の成長はまだ進んでいく。もう一度データセンターがブームになるはずだ。
– 日本企業が強みとしている「品質や改善」は世界で通用するのでしょうか。海外も日本の品質を勉強しています。私たちは違う強みを身につけ、優位性を見出す必要があるのではないか、と考えています。
現状、日本の優位性はない。スタートアップやイノベーションについては中国とインドが強い。ただし日本で根付く品質とクオリティ、そして期限を守る文化は世界に通用するはずだ。これ以外に日本の強みはない!!
– IT業界でのデータセンターの役割はどのようにお考えでしょうか。
データセンターは従来の箱売りだけではなく、運用、ソフトウェア開発を含めてビジネスとして成長していかなければいけない。
– 確かにソフトウェア化、IT化の普及は加速しています。デジタルトランスフォーメーションが進んでいくことで、データセンターへの変化は起こるのでしょうか。
デジタルトランスフォーメーションはバズワードになりがちだが、プログラミングやソフトウェア開発の人間が増えることでデータセンター業界は恩恵を受ける。実際TOYOTAや三菱UFJ銀行などがデータセンターを大規模使用、あるいは作ることで、データセンターが増えている。
– 最近JDCCは中国のデータセンター協会と関係性を築こうとしていますね。
中国のデータセンター業界は日本以上に右肩上がりだ。年間40%で市場が発展している。それは止まることなく今後もまだ続くだろう。JDCCは彼らと協力し合える関係性を築きたい。
– ハイパージャイアント含めて世界情勢の動向はいかがでしょうか。最近では外資系のデータセンター事業者が日本に進出してくる話題をよく耳にします。
日本に来たがっている海外ユーザは非常に多い。昔は電気代が高いことが日本進出のネックとなっていたが、今は海外も高くなってきている。日本のデータセンターがPUEの値が良くなってきていることも注目されている一つだ。
– 海外から見て、日本は地震国のイメージが強くないのでしょうか。
そういった環境面の問題はすでに払拭されている。それこそJDCCが東日本大震災や熊本地震の際にデータセンターでは問題が起きなかったことを証明した。環境面の条件よりも政治的な優位性はある。今後は政情の安定さとナショナルセキュリティーが重視されるだろう。先ほども言ったように日本にやってくる海外ユーザは確実に増えていく。必然的に「多様化」は加速する。
– 大変おこがましいのですが、先生が若手時代の話を伺わせてください。いまのデータセンターあるいはインターネットを知るきっかけを教えてください。
学生時代はインターネットの存在を知らなかった。東芝入社後にアメリカで研究員となるきっかけをもらい、1991年にインターネットを知り、趣味で始めた。1994年コロンビア大学で高速インターネットアーキテクチャの研究、そして国際的標準化に向けて活動を始めた。1998年には東京大学でニュートラルな立場でインターネット業界を発展に貢献していたと思う。40歳まではワガママにやらせてもらっていたと思う。
– 素人の意見ではありますが、Windows95の登場でインターネットの一般化が急激に進んだと記憶しています。私自身子供でしたが、恥ずかしながらインターネットの存在は初めて知りました。
PCのブラウザを通してインターネットの商用ビジネス化が加速していたことは確かだ。データセンター業界の今の状況は近いと思う。IoT、AIの成長はもちろん、世の中のセンシングがより増えていくことで巨大なデータセンターを作らなければいけないフェーズに入っている。
– 日本の企業について、教えてください。先生の若手時代といまの時代では違いはありますか。
今は安定志向をあまり考えていない。ジョブチェンジを考えることが多い。昔も今も基本は変わらないが、実際転職が増えているように見える。そういう時代だからこそ、今後何が起こるかの情報を集めること、そして多様なスキルが必要になって行くだろう。特に情報を得ている人と得ていない人の格差が激しくもなっている。
– 多様なスキルのお話がありました。私自身フューチャーセンターを立ち上げて、データセンター事業者以外の設備メーカやゼネコンと議論しあえるいい場所をつくれたと自負しております。今後は異業種交流なども今度進めていきたいことも考えております。
異業種という言葉は聞こえがいいが、ただ話し合うことだけではダメだ。そういう場所では出来上がっている人、優秀な人が多いから失敗する。「誰と何を話したい」かが大事だ。カドが取れている人が多くなると面白くないだろう?
– 確かにおっしゃる通りです。面白いメンバーがいなければ、私自身もフューチャーセンターをやっていませんでした。
– 日本は超高齢化社会になるに連れて、若手人材が少なくなることに危機感があります。
むしろ歓迎してもいい。若手のみんなにはチャンスと捉えてほしい。今まで人海戦術でやっていた作業に対して、コンピュータを使ってその文化をぶっ壊してほしい。それは日本だけではなく、ワールドワイドで動くことになるだろう。
- 実現するために若手に対して「足りないこと」を教えてください。
プログラミング能力が足りない。今の大学生は将来プログラムができないと、生き残れないことがわかっている。データセンターでプログラムに触れない若手も勉強するべきだ。
– 最後に若手に対して「期待していること」を教えてください。
「君たち若手が世界を作ってくれ」。それに尽きる。
・インタビュアー、テキスト
さくらインターネット株式会社 高峯 誠
・インタビュアー
株式会社NTTファシリティーズ 狭間 俊朗、三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社 相澤 祐太