白川 功(しらかわ いさお)
兵庫県立大学特任教授, 大阪大学名誉教授
日本データセンター協会(JDCC) 理事長
その他、知的財産高等裁判所 専門員、株式会社ソリトンシステムズ 顧問、株式会社モリタホールディングス 顧問、株式会社アースインフィニィティ 取締役,株式会社地球観測 取締役
日本データセンター業界のキーマンの方々に「若手への思い」を語っていただくブログリレーです。
初回は兵庫県立大学特任教授 白川先生に伺いました。
– いきなり不躾かもしれませんが、先生の経歴を教えてください。
1963年大阪大学工学部卒業し、大学院を経て1968年工学博士を取得。その後、すぐに大学助手を務めた。
– 世界初の自動改札システム開発のいきさつも教えてください。
修士時代の1964年近鉄の要請で定期券自動改札システムの開発に着手した。大阪万博の直前だ。定期券の通用経路の符号化をパンチカード穴25 bit以下でやれとの依頼を受けた。近鉄はすでに50 bitの符号化を取得していたが、それでは定期券の穴あけは無理であった。そこで、当時の私の先生の指導の下で21 bitの符号化法を開発した。以後の磁気カードの出現により今日の自動改札機普及に繋がった。
– 集積回路の話しを伺ってもよろしいでしょうか。
1970年代後半にNECのアルミ5層チップの設計も手伝った。この世界最初の5層チップ用に新しく多層配線設計手法を開発し、企業のCAD設計に貢献した。以来集積回路向け設計自動化手法の研究に従事することになった。1980年代後半からデジタル設計は急速に発展し、CADツールが生まれ、設計方法論を変革した。米国大学ではMOSIS(集積回路設計支援システム)という設計ツールを使って安価にチップ試作を行えたが、日本の大学ではそれができなかった。そこで1998年、修士学生を博士課程に進学させ一人前のチップ設計者に育て上げる目的で、日本最初の国立大発ベンチャーの株式会社シンセンスを起業した。学生の生活支援だけでなく設計実務を経験させるためだ。以後、信号処理用チップ開発や液晶表示機器のCAD開発にも参入し、学生の奮闘と自立を強要しつつ忙しく楽しい日々を送った。
– ありがとうございます。先生の経歴を伺うだけでも勉強になります。他にもたくさんのことを伺いたいのですが、JDCCについて触れさせてください。
2008年に理事長就任依頼の話を伺った時はデータセンターについては全く知識がなかった。当初、最大の課題は会員を募ることであったが、それにも増して、東京都が制定した使用エネルギー総量削減条令には狼狽した。年間1割強の電力増を抱えるデータセンター事業者に対しても一律に、2010年から5年間8%以上、2015年から5年間17%以上の削減義務が課せられた。試算ではセンター当たり10億円以上の罰則になるため、東京都庁に伺い、条令には従うが、データセンター事業には死活問題となるので、削減条件を緩和する方策について2者間協議の場を設けてほしい旨要望した。相互理解に達するまでには3〜4年かかったが、年間6%以上の電力増(=事業拡大)のエビデンスがあればその増分だけ斟酌してもらえることになった。
– データセンターにサーバーを置くことで、電気使用削減にも繋がることも大きいですよね。
東京都内の6割近くの企業がデータセンターのユーザーであるが、東京以外では4分の3もの企業が自前でサーバーを持っており、データセンターのユーザーではない。よって、このような企業をデータセンターのユーザーに勧誘することもJDCCの重要な課題だ。江崎先生の研究報告によると、自前のサーバーをデータセンターに移行するだけで電力使用量が15%削減でき、そのうえ、データセンター内のサーバーで仮想化を実行するとさらに25%もの削減が図られることも判明している。
– JDCCには自治体会員もいらっしゃいますが、今後広がっていくことはないのでしょうか。
東京都に比べると他の地方の自治体の関心はまだまだ低い。データセンターは情報系地場産業の核であり、JDCCは自治体会員と組んで地域産業の振興に貢献しなければならない。最近ではNTTグループの企業もJDCCに参加いただき、会員状況も変化してきた。これを機に、会員の更なる連携と多様化を図ってデータセンター活動の更なる増強に努めたいものである。
– クラウド化の波が強いですが、データセンター業界としてはいかがでしょうか。
統計によると、近年クラウド市場は急速に伸び、それが主因となってデータセンター市場の成長を押し上げている。データセンター事業のビジネスプランをもっと精査することによって更なる成長が期待できる筈だ。一つの有効策として、クラウド事業者と手を結び、データセンターサービスとして新しいクラウドの仕組みを開発・導入し、ユーザーの恩恵を増やすビジネスプランを模索すべきである。一方では、データセンター市場が年率7%も成長しているものの、国内サーバー機器の売上が減少し、海外製品に負けているという苦しい事情もあるので、その対策を練ることも重大な課題だ。
– ファーウェイを始めとしたサーバーを採用する事業者は多くなると思います。
昨年のファーウェイ社のデータセンター関連技術の視察で驚いたことは、人材も技術も中国は勢いが強いということである。特に、生産工程効率化と安全確保について日本の専門家を招いて勉強中という話を聞き、さらには技術開発の高度化を独自で実践している様を目の当たりにして、中国躍進の一面を垣間見ることができた。30~40年前の昔は日本から米国大学へ研究者が多数派遣され(私が見た限り、カリフォルニア大学では1社で数名)、幾多のユニークな人材が育ったが、現在ではその動きが大きく衰退している。米国ビジネスの主流が設計開発からサービスに移行したためであろう。とにかく、サービスの範疇にあるデータセンター業は新種の「データセンターマン」の育成に注力すべきである。もっと『やんちゃ』な人材の登用が必要と思われる。
– これからの若手人材に対して、もっと必要なことやスキルはありますでしょうか。一昔前はプログラマーの人材不足が騒がれていました。
今はセキュリティの人材不足も顕著に出ている。現時点でプログラマーは30万人、セキュリティ人材は15万人近い人材不足があり、今後もっと進むとも言われている。特に、データセンター向け人材と言ったとき、大学教授でさえデータセンターを知らないから、データセンター向けの人材育成はあまり期待できない。どうすればデータセンターに優秀な人材を獲得できるかはわれわれが独自で考えなければならない。
– 若手に対するメッセージをいただけますでしょうか。
社会活動を通じて会社の枠をぶち壊してほしい。実力と勇気を持って、堂々と言える人材が育ってほしい。怒られてもいいから、自分の思いを伝えることが大事だ。
– 私はデータセンター業界でワクワクする世界を作るためにフューチャーセンターを立ち上げました。先生からいただいた「会社の枠をぶち壊すこと」メッセージを大事にし、私の思いを業界へ拡げていきます。
・インタビュアー、テキスト
さくらインターネット株式会社 高峯 誠
・インタビュアー
株式会社NTTファシリティーズ 狭間 俊朗、三菱電機インフォメーションネットワーク株式会社 相澤 祐太